本記事では、2024年12月17日の参議院本会議で成立した令和6年度補正予算に盛り込まれた令和6年度補正「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化などの大規模成長投資補助金」(以下、「2025年の大規模成長投資補助金」)の概要と採択事例、及び申請前に準備・確認しておくべきこと等を紹介します。この補助金は、前年(2024年)に実施された「大規模成長投資補助金」と同様の金額・内容等で実施されると考えられますが、現時点(2024年12月28日現在)の公開情報を整理し紹介します。
・大規模成長投資補助金は、地域の雇用を支える中堅・中小企業が、足下の人手不足等の課題に対応し、成長していくことを目指して行う大規模な設備投資を促進することで、地方における持続的な賃上げを実現することを目的とした補助金です。 この補助事業では、労働生産性の抜本的な向上と事業規模の拡大を図るために行う工場等の拠点新設や大規模な設備投資に必要な費用等が補助対象経費となります。予算規模は、前年(2024年)と同じく3,000億円です。
・2025年の大規模成長投資補助金の事業実施期間は、交付決定日~令和10 年3月31 日までです。補助を受ける設備等の発注から納入、入金までをこの期間内に完了させる必要があります。
下図は、前年(2024年)の大規模成長投資補助金の1次公募のスケジュールです。現時点(2024年12月28日)では、2025年の大規模成長投資補助金の全体スケジュールは未公表ですが、2025年の補助金事務局の募集が前年(2023年12月)と同時期(2024年12月)に実施されていることから、2025年も前年と同様のスケジュールだと考えられ、2025年の1次公募開始は、2025年3月初旬と見込まれます。
<前年(2024年)の大規模成長投資補助金の1次公募のスケジュール(参考)>
【出典:中堅・中小成長投資補助金事務局HP】
・補助対象者は、中堅・中小企業(従業員数2,000人以下、みなし大企業除く)で、一定の要件を満たす場合は、中堅・中小企業を中心とした共同申請(コンソーシアム形式)も対象となります。
中小企業基本法における中小企業者の定義(資本金、従業員の数)に該当しても、上記の定義に該当しない場合は対象外となりますので、ご留意ください。小規模事業者やみなし大企業も対象外です。
みなし大企業の定義は、前年(2024年)の大規模成長投資補助金の「よくある質問」の回答によると以下の通りです。2025年の大規模成長投資補助金においても同じ定義になると考えられます。大企業は、常時使用する従業員数が2,000人超の事業者を指します。
補助事業の実施内容(概要)の公開情報は以下の通りです(2024年12月28日現在)。
1.対象事業 | 持続的な賃上げを目的に、足元の人手不足に対応するための省力化等による労働生産性の抜本的な向上と事業規模の拡大を図るために行う工場等の拠点新設や大規模な設備投資 |
2.対象経費 | 工場等の拠点新設や大規模な設備投資に係る費用 (建物費(拠点新設、増築等)、機械装置費(器具・備品含む)、ソフトウェア費、外注費、専門家経費であり、前年度(2024年)と同様と推定) |
3.投資下限額 | 10 億円(コンソーシアム形式により参加企業の投資額の合計が10 億円以上となる場合も対象。ただし、一定規模以上の投資を行う中堅・中小企業がいる場合に限る。) 仮に、投資額10億円の事業では、補助される金額は、約3.3億円となります。 |
4.成果目標 | 大規模投資を通じた労働生産性の抜本的な向上と事業規模の拡大により、少なくとも対象事業に関わる従業員の1 人当たり給与支給総額が、地域別の最低賃金の伸び率を超える伸び率を実現する。 |
5.補助上限 | 50 億円 |
6.補助率 | 補助対象経費の1/3 以内 |
なお、具体的な内容(対象範囲、要件等)については、経済産業省と協議の上決定するとあり、前年(2024年)の内容から、採択倍率等を踏まえ変更することがあり得ると、補助事業者募集要領に記載されています。
・前年(2024年)の大規模成長投資補助金の採択率は、1次公募は15%(採択倍率は約6.8倍)、2次公募は9%(採択倍率は11.0倍)と他の補助金と比較すると大変厳しく、採択は狭き門となっています。
<2024年1次公募の採択状況>
・応募:736件(書類採択率35%) ⇒ プレゼン審査:254件(プレゼン採択率40%) ⇒ 最終採択:109件(最終採択率15%)
・採択業種は、製造業と物流業のみ
・採択者の総補助金額は1,780億円(申請時の総投資予定額は5,892億円)
・採択者の平均投資予定額は約54億円、平均目標賃上げ率の中央値は4.3%
(参考)1次公募における各種指標の中央値(採択者、申請者全体)
<2024年2次公募の採択状況>
・応募:605件(書類採択率36%) ⇒ プレゼン審査:218件(プレゼン採択率25%) ⇒ 最終採択:55件(最終採択率9%)
・採択業種は、製造業が最多、他は宿泊業、物流業、建設業、飲食業、リサイクル業等
・採択者の平均投資予定額は約47億円、平均目標賃上げ率の中央値は5.5%
(参考)2次公募における各種指標の中央値(採択者、申請者全体)
・2025年の大規模成長投資補助金は、予算額が3,000億円と前年度と同程度であり、仮に申請者数と申請額が同程度であれば、採択率は同程度になると推定できます。なお、予算額3,000億円の内、400億円は補助金の事務局への業務委託費となるので、採択者への実質の予算額は2,600億円となります。
(3)大規模投資補助金の採択事例
・前年(2024年)の大規模成長投資補助金で採択された企業の事例は、中堅・中小成長投資補助金事務局のHPにて公開されています。「補助金交付が決定した企業(随時更新)」の住所、又は業種から採択企業の事例を検索できます(以下参照)。
・採択企業の一例として「株式会社アイ・テック」の事例の内容(長期成長ビジョン、補助事業の概要)は、以下の通りです。この事例の特徴は、総事業費は、74億円と高額(建設費は補助対象外)ですが、補助額は5.4億円(機械装置費が補助対象)であり、売上高成長率(32.1%)や売上高増加額(349億円)が非常に高いことです。
2025年の申請を検討している企業は、自社の申請予定の事業内容と類似の採択事例を検索し確認すると参考になるでしょう。
(4)大規模投資補助金の各指標中央値の比較(採択者と申請者全体)
・2024年の1次公募と2次公募の採択者と申請者全体の各指標中央値の比較表が、中堅・中小成長投資補助金事務局のHPに掲載されています。
採択者は、1次公募と2次公募共に申請者全体の各指標中央値よりも高い数値となっており、各指標が高いほど採択されやすい傾向にあります。また、2次公募の採択者は、ほぼ全ての指標で1次公募の採択者の各指標中央値を上回っており、2次公募の方が難易度が高いといえます。よって、2025年の大規模成長投資補助金の申請を予定している企業は、1次公募での申請をお勧めします。
なお、上述の採択企業(株式会社アイ・テック)は、以下のように売上成長率・増加額、労働生産性、給与支給総額の上昇率等が申請者全体の各指標中央値より高いことが確認できます。
本補助事業の対象となる事業は、投資金額が最低でも10億円と高額であり、また公募期間も約2か月と短期間であることから、公開開始後に事業計画の立案を開始し申請することは現実的ではなく、2025年の大規模成長投資補助金への申請を検討している企業は、既に事業計画を作成していることが前提となります。また、その事業計画では補助金の目的(大規模投資で持続的な賃上げを実現するのか)、投資の内容(建設費や機械装置費がメインとなるのか)、スケジュール(投資を補助金のスケジュールに合わせられるのか)とマッチするか、自社で事前にしっかりと検証しましょう。自社の経営戦略に沿って作成された事業計画があり、その事業計画を推進する上で補助金がマッチする場合は是非活用するとよいでしょう。補助金を使うこと自体が目的とならないよう注意してください。
現時点(2024年12月28日)では、2025年の審査基準は未公開ですが、前年(2024年)の審査基準(以下参照)と大きな相違はないと考えて、前年の審査基準を踏まえて事業計画書のブラッシュアップ(根拠、各指標、体制等の準備)を行いましょう。審査基準は公募開始時に公開されますが、公募が開始されると確認すべき事項が多く、それから準備を開始していては申請に間に合わないケースがあります。公募開始時には、前年との変更点を確認し、その変更内容に応じて事業計画を修正するようにしましょう。出典:中堅・中小成長投資補助金事務局HP
審査項目 | 内容 |
経営力 | 経営戦略上の補助事業の位置付けを踏まえ、補助事業を通じて企業自身の持続的な成長につながることが見込まれるか |
先進性・成長性 | 補助事業により、労働生産性の抜本的な向上が図られ、当該事業における人手不足の状況が改善される取組か |
地域への波及効果 | 補助事業により、従業員1人当たり給与支給総額、雇用の増加等、地域への波及効果が見込まれる取組か |
大規模投資・費用対効果 | 補助金額に対して、既存事業とのシナジー効果等により生み出される付加価値額や売上高・賃金の増加分が相対的に大きな取組か |
実現可能性 | 政策目的に合致した取組であり、かつ、補助事業に必要な資金・体制等が十分に確保されているか |
本補助金の対象となる設備等に係る投資金額は最低でも10億円と高額で、金融機関などの外部機関から資金調達するケースが多くなります。事前に金融機関を選定し、金融機関と借入金額返済期間等の調整が必要となります。この調整には、ある程度の期間が必要となるので、早めに金融機関と調整し、事前の承諾を得ておく必要があります。
また、補助事業は交付決定から補助事業が開始となり、設備発注~納入~入金を行い、補助事業の完了後に確定検査を実施して、ようやく補助金入金となります(下図参照)。交付決定から補助金入金まで補助金の立替払いが必要な期間は、数年かかる可能性があり、この立替期間に資金繰りが悪化しないよう資金調達の準備が重要です。
出典:中堅・中小成長投資補助金事務局HP
・今回は、2025年の大規模成長投資補助金の概要と採択事例、及び申請前に準備・確認しておくべきこと等を紹介しました。前年(2024年)の大規模成長投資補助金と比較すると、予算規模は同額であり、補助事業の目的・内容・開始時期等もほぼ同じと推定されます。2024年の大規模成長投資補助金で不採択だった企業や、令和8~9年度に新工場を建設予定、大規模設備投資等を検討している企業は、本補助金の検討を早急に始められることをお勧めします。他の補助金に比べ採択率が低いため、より一層実効性の高い事業計画書(成長投資計画書)の作成が必要であり、申請の準備は余裕を持って計画的に進めることが重要です。
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