
中堅・中小企業の賃上げに向けた 省力化等の大規模成長投資補助金(大規模成長投資補助金)の1次および2次公募では合計192社の企業が採択されました。昨年(2024年)に引き続き、2025年も大規模成長投資補助金の募集が開始されます。この補助金は、中堅・中小企業の持続的な賃上げや事業成長を支援することを目的とし、補助上限額は最大50億円に設定されています。本記事では、昨年採択された企業事例から、採択を獲得するためのポイントを解説します。
昨年(2024年)、大規模成長投資補助金の公募は2回行われました。下図は1次および2次公募における申請件数、採択企業数、および採択率を表しています。
出典:大規模成長投資補助金WEBサイトをもとに作成(https://seichotoushi-hojo.jp/koufu/)
大規模成長投資補助金への申請件数は合計で1341件あり、採択数は194件でした。その採択率は14.5%と、非常に激しい競争となっています。
さらに2次公募の採択数85件のうち30件は、プレゼンテーション審査で不採択とされた企業からの追加採択です。この追加採択の場合、投資期間全額の補助は認められず、令和6年度分の交付申請に限定されました。この追加採択を除くと2次公募の採択率は9.1%でした。
大規模成長投資補助金WEBサイトでは、採択企業の申請書類の一部が公開されています。下図は、公開資料から業種の分布を独自に集計したものです。(※2025年2月25日時点に公開されている152社を対象)
出典:大規模成長投資補助金WEBサイトをもとに独自集計(https://seichotoushi-hojo.jp/koufu/)
大規模成長投資補助金の採択企業のうち、全体の76.3%を製造業が占めています。やはり大規模な工場を要する製造業に向いている補助金だと言えます。次に卸売業・小売業、運輸業・郵便業と続きます。なお、卸売業・小売業および運輸業・郵便業に関しては、全18件中11件が物流拠点への投資事例となっています。
次に分野別で見ていきます。下図は採択企業の取組み分野を独自に集計したものです。
出典:大規模成長投資補助金WEBサイトをもとに独自集計(https://seichotoushi-hojo.jp/koufu/)
旺盛な投資ニーズがある成長市場への取組みが上位を占めています。特に食品、半導体、自動車分野への取組みが多く見られました。また、機械・製造設備、倉庫・物流はそうした成長分野を支えるインフラと言えます。
下図は採択企業の事業費総額、および補助額を独自に集計したものです。
出典:大規模成長投資補助金WEBサイトをもとに独自集計(https://seichotoushi-hojo.jp/koufu/)
大規模成長投資補助金の採択企業における、事業費総額の中央値は33.5億円、補助額の中央値は9.4億円でした。大規模成長投資補助金では最低投資額が10億円に設定されています。最低投資額付近と比較すると、事業費総額の中央値は約3倍に上ります。
採択企業のうち、最多を占める製造業では、工場の集約移転による生産能力拡大と、設備投資による生産性向上を図る取組みが多く見られました。これは旺盛な受注機会拡大を背景に、大規模化と効率化で供給力の強化を図る取組みです。
それでは事例として、包装機材メーカーの取組みを見ていきましょう。
食品製造ラインで使用される包装機材メーカーの事例です。日本国内の人口減少を背景に、成長著しい世界市場における包装機械の需要を取り込み、企業成長につなげる取り組みを計画しています。さらに、日本で培った技術を活かし、海外での製造・販売体制の強化を図るため、マザー工場として国内拠点の技術力向上を中期目標に掲げています。
課題
受注の伸長に対して供給力が不足し、成長の阻害要因となっている
今後の人口減少・採用難のリスクに対し、労働生産性の向上、省力化が課題
上述の課題を解決するための設備投資の内容は以下の通りです。
工場建設:35億円
・既設工場の3.5倍超の床面積
・全自動化設備に対応できる高さ5mの天井高
システム・機械装置:6.5億円
・工場間の効率的な融通を可能にする支給品払い出しシステム構築
・複雑なオーダーメイド設計の増加に対応するための3D CADシステムの購入
・その他、事業に必要なシステム・機械装置関連費等
供給力の大幅改善により受注残を解消し、成長の阻害要因を排除し、顧客ニーズへの対応力を高める計画です。さらに全自動化の需要などで大型化する顧客ニーズに応えた競争力向上を企図しています。
また、省力化・効率改善による労働生産性の改善により、技術者のコア業務時間が増え技術力向上・新技術開発に寄与する計画となっています。
近年の物流取扱量増加を反映し、物流拠点の投資も多く見られました。この物流拠点分野ではキャパシティ向上の鍵は自動化による効率化にあります。床面積の増加だけでは物流拠点の効率的な運用は実現できません。自動化によって在庫の効率的な稼働を実現してボトルネック解消を図る必要があります。
それでは事例として、首都圏における物流拠点の事例を見ていきましょう。
輸入物流に強みを持つ物流拠点企業の事例です。越境ECの拡大とともに成長を続ける3PL(third party logistics)市場を背景に、DX化を推進することで効率化と、外部環境変化への柔軟な対応力を獲得する取組みです。以下の課題が挙げられています。
課題
IT×LT(物流技術)×IoTを駆使しソフトウェアとハードウェアを組み合わせた自動倉庫の導入により、航空輸送・海上輸送・3PL事業を物流DXソリューション事業として一体的に運用
横浜倉庫、東京倉庫、博多倉庫の3拠点において業務の省力化
上述の課題を解決するため、設備投資の内容は以下の通りです。
横浜支店:45.6億円
【倉庫新築】
・物流効率の高い倉庫を実現する。
【機械装置・システム導入】
・自動倉庫システム
・クッション封筒自動包装機
・シュリンク包装自動包装機
・自動包装システム
・チラシ丁合機
・袋包装自動包装機東京支店:5.5億円
【機械装置・システム導入】
・自動倉庫システム
・クッション封筒自動包装機
・シュリンク包装自動包装機
・自動包装システム
・チラシ丁合機博多支店:0.7億円
【機械装置・システム導入】
・マテハンシステム
横浜拠点の倉庫新築を中心に、3拠点を同時に強化する計画です。この計画では、倉庫の自動化の遅れによる取扱可能な物量のキャパシティ、作業スピード、作業品質の限界を解決するため、マテハン機器の導入による自動倉庫化による解決を目指しています。
採択企業のうち、サービス業は「宿泊業」「廃棄物・リサイクル業」の2種が多くを占めています。
「宿泊業」では、従来の宿泊施設からリゾート化を志向して高付加価値化を目指す計画が見られました。
「廃棄物・リサイクル業」では環境保護と持続可能性への対応力向上、労働環境の改善がテーマとなっていました。
それでは事例として、観光ホテルの取組みを見ていきましょう。
和歌山県、福島県、岩手県のホテル企業がコンソーシアムを組んだ事例です。これにより、地域観光のフラッグシップホテルとしての成長と、地域全体の経済活性化が図られています。下記の課題が挙げられています。
課題
老朽化する施設、設備の更新による急速に拡大するインバウンド等の需要変化への対応。
人手不足、高齢化するなかで業務効率化、省人化によるサービス品質の確保。
上述の課題を解決するため、設備投資の内容は以下の通りです。
和歌山県のホテル:69億円
・開業から30~60年経過する4施設の改修
・団体旅行が主流だった時代に設計された施設を、近年の個人利用を前提とした滞在コンセプトに再設定し高付加価値化
・住空間・衛生インフラの機能向上、省エネルギー化福島県のホテル:5.2億円
・オーナーチェンジ後初の設備更新
・団体客向けの内装・設備の洋式化により、インバウンド、若年層、個人客の需要取り込み
・ニッチだが高単価となるペット愛好家、歴史愛好家に向けた工事による高付加価値化
・新基幹システム導入による業務効率化、業務のマルチタスク化
・配管などのバックヤード更新によって、メンテナンス工数の削減を実現岩手県のホテル:1.7億円
・最後の大規模改修から約10年が経過し、メンテナンス工数、サービス工数削減に寄与する、設備改修による労働生産性向上効果が高い投資を実施
・カードキー導入、新基幹システム導入による管理業務効率化
・清掃ロボット導入による清掃業務の効率化、省人化
・配管等のバックヤード更新によるメンテナンス工数削減
時代に合わなくなった施設を現在のニーズ変化に対応して更新し、非効率なサービス体制の改善による労働生産性向上してサービス品質を高め、拡大するインバウンドなどのニーズを取り込む計画です。それぞれ異なる地域ながら、方向性が一致する観光ホテル企業でコンソーシアムを組むことで投資効果を高めています。
大規模成長投資補助金は「①経営力」「②先進性・成長性」「③地域への波及効果」「④大規模投資・費用対効果」「⑤実現可能性」といった観点から審査されます。下図は大規模成長投資補助金の審査項目を示しています。
出典:大規模成長投資補助金WEBサイト(https://seichotoushi-hojo.jp/koufu/)
大規模成長投資補助金では、補助事業を通じた高い成長性と地域への波及効果が求められます。
なかでも一次審査(書面審査)では各種指標の数値が重視されます。そのため、事業計画を検討する際には、指標を試算して採択企業と比較することをお勧めします。下図は、採択企業と申請者全体の各種指標の中央値を表しています。
出典:大規模成長投資補助金WEBサイト(https://seichotoushi-hojo.jp/koufu/)
申請者全体と比較することで、採択企業の計画が定量的にどれだけ優れているかが分かります。やはり定量的にも優れている企業が採択を獲得しています。
補助事業による企業の成長性の高さの指標です。これは全社の売上高を大幅に増加させるとともに、補助事業により高付加価値化を実現できるかが問われています。この全ての数値で大規模成長投資補助金の採択企業は申請者全体を上回っています。それだけ高い成長を実現できる計画となっていることが分かります。
雇用拡大と従業員の賃上げを通じて、地域への貢献を示す指標です。大規模成長投資補助金の採択企業は地域への波及効果においても高い数値となっています。つまり地域に対して好影響を与える事業計画が評価されています。
採択企業の全社売上高に対する投資割合が申請者全体の中央値を下回っている一方、補助事業による付加価値増加額の割合は高い数値となっています。つまり投資の費用対効果が高い企業が採択されています。そのため、企業の売上高規模に対して無理のない投資でありつつ、高い効果が得られる計画であることが求められます。
採択企業と申請者全体に差はありません。このローカルベンチマークの得点は現在および過去の財務状況から点数が決まります。つまり、ローカルベンチマークは補助事業を通じて成長を実現させる力を持っているかを見る判断材料になります。
もし採択企業の指標を下回る場合は、指標の改善が出来ないかを検討しましょう。
しかし、指標の中には計画の見直しでは改善できないものも含まれています。例えばローカルベンチマークは実績の財務状況に左右されるため改善はできません。ローカルベンチマークの得点が基準より低い場合は、他の数値でカバーできているかを検証しましょう。
本記事では、昨年採択された企業事例をもとに、採択を獲得するためのポイントを解説しました。大規模成長投資補助金の申請の参考にしていただくとともに、地域を支える企業としての成長実現にお役立てください。
また、補助上限額が最大5億円の中小企業成長加速化補助金も新設されていますので、計画されている事業の規模に応じてご検討ください。
中小企業成長加速化補助金については下記の記事を参考にしてください。
「中小企業成長加速化補助金 売上高100億円への飛躍的成長とは?」
https://procon-hojyokin.com/r7_seicho_100oku/
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